「うん、おいしい。」
料理中の味見でちょうどいい塩加減だと嬉しくなるのだけど、ときどき勘だけで調味料を加えて、味見をしないこともある。
いただきますをして食べ始めてから
「ちょっと塩気が足りなくて薄味だなぁ」
テーブルにある塩の小瓶を少し振って味を調整。
ちょっと悔しい。
極論、どんな料理でも塩をかければおいしく食べれる。
塩はいのちだ。
名古屋の栄駅の近くの公園で葉桜を見てから、ある目的地へ向かって30分ほど歩いただろうか。
辿り着いたのは、閑静な住宅街にある白壁が特徴的な隠れ家レストラン。
ここは”塩という調味料を使わない”割烹フレンチだというのだ。
醤油を使うわけでもない。
もはや理解が追いつかない。
でも食べた瞬間、もう言葉はいらなかった。
その場にいた誰もがわかっていた。
今、ここにある料理を五感で感じて楽しむべきであると。
塩はいらない。
今まで食べてきたものが余計な味付けをされていた食べ物だったのではと疑ってしまう。
このシェフ、奇才なり。
おいしいごはんを食べながら仕事の打ち合わせを・・・と思ったら、
あまりのおいしさに黙り込んでしまって、何も打ち合わせできなかったよ!
目次
割烹フレンチ 一穀一枝(いちごいちえ)
名古屋の食べログを見ていて、ふと目が止まった文章。
調味料は使用してません。食材という命を無駄なく食べ切る 割烹 の本質を追求し 命を無駄なく大切に扱い お料理に転化しております。
出典:食べログ
なんて興味深い文章なんだろう、これは行くしかない!
仕事の会食という建前でお店をHUNGRY TRAVELER目線で勝手にチョイス。
結果、大正解。
塩を使わないからこそ手間暇かけて、丁寧に丁寧に創り上げてくれています。
おいしさの秘密は魔法でもなんでもなくて、料理の裏に隠れている沢山の時間と素材。
素材の良さが最大限に引き出される調理法で、その丁寧さが垣間見えるからこそ、心を打たれ、また来たいと思います。熱心なファンの方がおそらく多いはず。
食べると確かな塩味を感じます。
塩を使わないのにおいしい秘密とは
これらの多くは塩を使わずに味付けされています。
魚介系の料理では、素材から出汁をとって煮詰めることで塩味を出していくそうです。
例えば、のちほど出てくるホタルイカの場合。
実際に食べるホタルイカは2杯のみ。
でもその裏には、出汁をとる、すなわち塩味をとるためだけに沢山のホタルイカが使用されています。シェフはホタルイカのコンソメを作るという表現をしていました。
ホタルイカから抽出された出汁を煮詰めていくと塩分が濃くなります。旨味も凝縮されます。見えないホタルイカも一緒に食べているという…なんて贅沢な味付け。
魚は身からも骨からも内臓からも塩味を抽出することができるため、かなりのこだわりを持って選ばれているそうで、魚介系素材は内臓の中までしっかり確かめているとのこと。
身が上等だとしても内蔵の中が臭かったらエキスを抽出することができません。
聞いたことない話がどんどん溢れ出てくるシェフのプレゼンもご飯をおいしくしてくれます。
ちなみにお肉には塩を使うそうです。
素材が活きる絶品料理
今回は品数が少な目の5500円のコースを予約していました。
到着してからメインディッシュを選ぶことができます。
魚か肉か、肉ならば追加料金を払えば豪華な食材で作ってもらえます。
次回食べたいと思ったのがフランス・モンサンミッシェルから取り寄せている仔羊。
今回のコースは少な目と言いつつも、海外食べ歩きでデブ化が進んでしまい、減量に励んでいる僕にとってはちょうど良い量でした。
大食いの方は物足りないと思うのでフルコースをおすすめします。
ホッケのシュー
前菜の前に。一口サイズのシュークリームのような見た目でかわいらしいですが、中に入っているのはホッケのビューレをムースにしたもの。
濃厚で大人の味。
一口食べてからシャンパンを飲んでも口の中に旨味が残ります。
その余韻もまた楽しい。
「ひと口かふた口でお召し上がり下さい」
そう仰っていましたが、一瞬でなくなってしまうのが嫌で三口に分けて食べました。
前菜の盛り合わせ
インパクトある写真になっちゃいましたが、7種類の前菜が器に盛り付けられています。
シェフ厳選のこだわり食材の数々。
・タコ(明石)
・ホタルイカ(富山)
・石垣鯛
・豚肉のパテ
・バイ貝
・車海老
・サバ
ここから”塩を使わない”調理方法の本領発揮です。
最初に箸でつまんだホタルイカを口に運んだ瞬間から、時の流れがゆっくりになったかのように誰もが無言になりました。
おいしくてテンションが上がる料理もあれば、水面に垂れた水滴が作った波紋が広がってすーっと消えていくように心が平穏になる料理もあります。
一穀一枝は後者。
大切な人とただただ食べることに没頭して、無言の時間を共有できるほどのおいしさ。
まるで忘れていたかのように、あとから「うまい。」という言葉がやってきます。
適度な塩味と絶妙なうまみ。
反対からみると、こういう盛り付けです。
サバに入った包丁やタイについている柑橘を見るだけでも、丁寧さが伝わってきますよね。
岩牡蠣
なんということでしょう。
68℃のシャンパン(アルコールを残した状態)に牡蠣を浸して火を通しているそうで、食感はまるで生のようにぷりっとしているにも関わらず、臭みはありません。
えっシャンパンで低温調理!?
思わず聞き返しちゃいました。
一口で食べちゃったらもったいないなぁと思っていたら、2つに切ってありました。さすがシェフ。
牡蠣の下にはカリフラワーのピューレが隠れています。1度目は牡蠣をそのまま食べて、2度目はピューレと一緒に。
サクラマスとはまぐり
本日のメインデッシュ。
サクラマスの皮はカリッカリ。身は分厚く食べごたえがあります。
こればっかりは口に入れた瞬間に
うまっ
と漏れました。
このマスを平らげると、ぷりっとした立派なはまぐりが現れます。
大口を開けて食べるくらい特大サイズ。これは大興奮。
早く食べたい。だけれども、ぱくっと一口で終わっちゃうと寂しいのでナイフで半分に。
これがまたもう…噛み締めた瞬間にはまぐりの旨味で口の中が支配されます。噛めば噛むほど、ほのかな甘みが感じられます。
そらまめ、ぐりーんぴーす、九条ねぎ。添えられた野菜の素材の味とソースの味が調和しながら掛け合わさっていて、もっと野菜を食べたくなります。
しっかり塩味がついているのですが、これも塩を使っていないそうで。もう魔法のようで。
「うわぁ、すごい」とまたしても声が漏れました。
残ったソースは香りのよい自家製パンにつけて食べます。
最後のソースをパンでひとすくいした時は、おいしい時間が終わっちゃうんだなとしみじみ。
デザート
ショートケーキの「再構築」が表現されたスイーツ。
ポイントはホワイトチョコのエスプーマ。
炭酸が吹き込まれたムースのような感じで、食べると舌の表面でシュワシュワと弾けます。それと同時にほのかな酸味を感じます。
この酸味のおかげでチョコの甘ったるさが尾を引かずにキレが良く、お腹が満たされたあとでも自然と食べれます。
ここまでほとんど会話をすることなく打ち合わせしない打ち合わせが終了。
胃袋だけではなく心・精神まで満たされる食事でした。
たまにはこうやって英気を養うのもいいですよね。
気分上々で春の夜道をお散歩しながら帰りました。
一穀一枝(いちごいちえ)の情報
個性的なシェフ
独特な視点をお持ちでした。
フランス修行から戻り、日本では調理場ではなく素材の下処理をする処理場であえて修行を積み重ねたそうです。
調理の技術はあとからでも身につけることができるけども、どれほど沢山の良質な素材に触れ、丁寧に扱えるかの方が大事とのこと。
シェフの話で興味深かったのが、フランス時代に習慣になったこと。それは海水の味を確かめること。海水の味はどこも違っていて、魚から塩味を抽出するからこそ、海水の味も確かめるそうです。
塩を使わない調理スタイルは、素材を丁寧に扱うプロフェッショナルだったシェフだからこそ生まれた必然にちがいありません。
お店が混み合っていなければ、シェフとお話するとより楽しめますよ。
名古屋駅からの行き方
閑静な住宅街にある隠れ家レストランなので、名古屋駅からちょっと距離があります。
Google Mapで調べるとバスに乗って行くというルートが出てきますが、電車移動の方がわかりやすいと思います。
まず、名古屋駅太閤口から出て地下鉄東山線に乗って「栄駅」で下車。
「栄駅」歩いて少しの距離にある名鉄瀬戸線「栄町駅」から「尼ケ坂駅」へ行きます。
「尼ケ坂駅」から徒歩6分です。フォトスタジオの隣です。
住所:愛知県名古屋市東区主税町4丁目13 リヴェール桜
帰り道も栄駅を通るなら、夜風に吹かれながらちょっとお散歩しても楽しいですよ。
シンボル的な存在のテレビ塔や、宇宙船のような建造物オアシス21がライトアップされているのでプチ名古屋観光ができます。
ちなみに、お店の住所の主税町は「しゅぜいちょう」と読みたくなってしまいますが、正しくは「ちからまち」。
知らないと絶対読めないでしょ。。。
タクシーの運転手さんに伝えるときは気をつけてくださいね。
駐車場はあるの?
近隣の有料パーキング利用になります。
クレジットカードは使えるの?
使えます。
予約はできるの?
公式サイトや一休.com、食べログからWEB予約ができます。
基本情報
割烹フレンチ 一穀一枝(いちごいちえ)
公式サイト
http://nagoya-french.info/
営業時間
ランチ:11:00~13:00、13:00~15:00の2部制
ディナー:18:00~22:00(L.O.20:30)
定休日月曜日
まとめ
店名は一穀一枝。読み方は「いちごいちえ」
この出会いに感謝したくなる素敵なお店です。
大事な会食や大切な人との食事で何度も利用したくなります。
くれぐれも会食は打ち合わせではなく親睦を深める目的で。
あまりのおいしさに黙り込んじゃいますから。
あっ、深い中になっていない方とのデートで黙り込んじゃうのはもしかしたら危ないかもしれません笑
おいしい料理を食べ終わってお店を後にする頃には、身体も心もキレイになっているような感じがしました。穏やかな気持ちでホテルへ戻りました。
ごちそうさまでした。